歌舞伎の演目

歌舞伎あらすじ・宇都谷峠(うつのやとうげ)

本命題/蔦紅葉宇都谷峠 通称/宇都谷峠、文弥殺し
河竹黙阿弥作の世話物。安政三年(1856)九月、江戸市村座初演。按摩の文弥殺しがストーリー展開の中心になっているが、白浪物ではない。



あらすじ

東海道鞠子の宿の旅籠、藤屋。大部屋にもう一人、客が加わった。江戸で居酒屋を営む伊丹屋十兵衛である。十兵衛の妻おしずは大恩ある旧主の娘で、幼いときに誘拐され吉原に身を沈めていたのを十兵衛が知り、二百両で見請けしたのだった。しかし半金百両が払えず、その調達のため京に上ったが、あてがはずれ、やむをえず江戸に帰る途中であった。

同宿の按摩文弥は、座頭の官位をとるため、姉のおきくが吉原へ身を売ってつくった百両を懐に、京へ上る途中である。
その文弥をつけ狙う仁三という悪党。それと感づいた十兵衛は、翌朝、宇都谷峠まで文弥を送るが、文弥が百両をもっていることを知り、殺して金を奪う。それを影で見ていたのが仁三であった。

江戸へ戻った十兵衛は、文弥の亡霊に悩まされる妻を誤って殺し、また十兵衛を見つけてゆする仁三も殺してしまう。十兵衛もまた罪を償うためみずから腹を切る。

見どころ

鞠子の宿は、旅宿の風俗がいきいきと描かれているのに加え、旅人それぞれの生活まで見えてくることに注目したい。
峠では、実直な商人である十兵衛が百両の金を境に鬼の心にかわってゆくさまが恐ろしく、哀れでる。いっぽうは旧主の娘を救うための金、他方は姉
が苦界に身を沈めてまでつくってくれた金、それを奪い奪われる十兵衛と文弥はいかにもせつない。
「京三界まで駈け歩き都合のできぬその金を持っていたのがこなたの因果、欲しくなった私の因果、因果同志の悪縁が、殺す所も宇都谷峠・・・」、文弥から金を奪おうとする十兵衛の血を吐くようなせりふが、このドラマのすべてを物語っている。

●名せりふ・・・十兵衛:割っつくどいつ事情を話したとても貸さぬは道理、さらさら無理とは思わねど、その百両の金がないと大恩受けたお主の難儀、道にそむいたことながら、私も以前は若党奉公、武士の禄を食んだからは、切取りなすも武士の習い。お主様のためには換えられぬ。
因果同士の悪縁が、殺す所も宇都谷峠、しがらむ蔦の細道で、血汐の紅葉血のなみだ。このひき明が命の終わり、許して下され、文弥どの。

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